UIデザインツールといえばFigmaを選ぶ——数年前まではそれで十分だった。しかし最近、企業のIT担当者やデザインチームのリードから「Figmaを使い続けることに不安を感じてきた」という声をよく聞くようになった。不満の理由は機能ではない。セキュリティと、データの置き場所だ。Figmaは全データをAWSのクラウド上に保存する仕組みになっている。それ自体は多くのSaaSと変わらないが、日本の大企業や金融機関、官公庁関連の組織にとっては、ここが大きな問題になる。個人情報保護法の改正、経済安全保障推進法の施行、そして金融庁が示すクラウドガイドライン——こういった規制環境の変化が重なり、「設計データを海外クラウドに置いていいのか」という問いが現場レベルで真剣に議論されるようになってきた。
加えて円安の影響でFigmaのドル建てライセンス費用が実質的に値上がりしており、コスト面での見直し圧力も高まっている。
そこで注目が集まっているのが、Figmaに匹敵する機能を持ちながら、オンプレミスやプライベートデプロイに対応した代替ツールだ。代表的な選択肢として名前が挙がるのが Penpot と Pixso の2つ。本記事ではこの3つのツールを、機能・セキュリティ・コスト・導入のしやすさという4つの軸で徹底的に比較する。
第1章:3ツールの基本プロフィール
1.1 Figma——業界標準になったクラウドデザインツール
Figmaが登場した2016年当時、デザインツールの主流はAdobeのXDやSketchだった。Figmaが業界を変えたのは「ブラウザで動く」という一点に尽きる。インストール不要、OS問わず動作、チームメンバーが同じファイルをリアルタイムで同時編集できる——これが当時のデザインワークフローに革命をもたらした。
2022年にAdobeが約2兆円で買収を試みたことも話題になったが(最終的には規制当局の反対で破談)、それだけFigmaの市場での地位が高かったことを示している。現在もUIデザインのデファクトスタンダードとして、世界中のデザインチームに使われている。
主な強みを整理すると:
- ブラウザ完結のリアルタイム協業:設計者・開発者・ステークホルダーが同じ画面を見ながら議論できる
- 豊富なプラグインエコシステム:コミュニティ製プラグインが数千種類あり、ワークフローをカスタマイズしやすい
- FigJam:ホワイトボード機能との統合で、ブレインストーミングからデザインまで一気通貫できる
- Dev Mode:開発者向けのコード自動生成機能が充実しており、デザイン→実装のハンドオフがスムーズ
一方で、致命的な制約が1つある。Figmaはクラウド専用SaaSであり、オンプレミスへのインストールや、自社管理のVPC・プライベートネットワーク上への展開には対応していない。 これは仕様上の問題ではなく、Figmaのビジネスモデルそのものに起因する構造的な限界だ。
Figmaのサポートに確認しても「オンプレミス対応の予定はない」と明言されており、近い将来に変わる見込みは低い。

1.2 Penpot——開発者コミュニティが支えるOSSの実力者
PenpotはスペインのKaleidos社が開発したオープンソースのUIデザインツールで、2023年ごろから日本の技術者コミュニティでも話題になり始めた。
最大の特徴は完全オープンソース(MPL 2.0ライセンス)でセルフホストが可能な点だ。Dockerイメージが公式で提供されており、自社サーバーや社内クラウド上にデプロイすることができる。データが外部に出ないため、原則としてセキュリティ要件が厳しい環境でも使える可能性がある。
UIはFigmaに近い操作感で設計されており、Figmaユーザーが移行してもそれほど違和感を感じない。コンポーネント、プロトタイピング、デザイントークンなど基本的な機能は揃っている。
ただし、実際に企業での本番運用に使う場合、いくつかの現実的な課題がある。詳しくは第3章・第4章で述べるが、「無料でセルフホストできる」ということと「エンタープライズ用途で安全に運用できる」ということは、必ずしも同じではない。

1.3 Pixso——エンタープライズ向けプライベートデプロイに特化したプラットフォーム
Pixsoは、Figmaと同等以上の機能を持ちながら、大企業向けのプライベートデプロイを正式サポートしているデザインプラットフォームだ。もともとは中国国内の大手企業(金融機関・通信会社・製造業)向けに開発された経緯があり、セキュリティ要件が厳しい環境での運用実績が豊富にある。
日本市場への展開も進んでおり、日本語UIへの対応、日本のコンプライアンス環境に合わせた機能実装、そして日本語でのカスタマーサポートを提供している。
Pixsoのポジションをひと言で表すなら、「Figmaの操作感を持ちながら、Penpotが持てないエンタープライズサポートと、Figmaが持てないオンプレミス対応を両立させたツール」だ。

第2章:機能比較——デザイン・プロトタイプ・協業の実力を検証する
ツールを選ぶ際、機能の充実度は当然ながら最初の判断軸になる。ここでは実際に使った感覚も踏まえながら、5つの観点で3ツールを比較する。
2.1 UIデザイン機能
Figma は現時点でも最も機能が成熟している。オートレイアウト、バリアブル(デザイントークンの動的管理)、コンポーネントのプロパティ設定など、プロダクトデザインに必要な機能がほぼすべて揃っている。特に複雑なデザインシステムを構築する場合、Figmaの柔軟性は他のツールより一歩抜けている印象だ。
Penpot はFigmaに近いUIを持つが、細部の操作感に違いがある。オートレイアウトに相当する「Flex Layout」機能は実装されているが、Figmaほど細かい制御ができない場面がある。バリアブルに相当するデザイントークン機能は対応しており、この点はOSSツールとしては高く評価できる。全体的には「Figmaの7〜8割」の機能水準と見ておくと良い。
Pixso はFigmaとほぼ同等の機能セットを持つ。オートレイアウト、コンポーネント、バリアブル、マスク、グリッドシステムなど主要機能はすべてカバーされており、FigmaからPixsoに移行したチームが「機能が足りない」と感じるケースは少ない。加えて、AIを使った自動レイアウト生成やデザイン提案機能も搭載されており、生産性を上げる独自機能が追加されている点は注目に値する。
2.2 プロトタイピング
Figma のプロトタイプ機能は業界でもトップクラスで、画面遷移・アニメーション・インタラクション設定の細かさは他ツールの追随を許さない。Smart Animateによる滑らかなトランジション表現は、実際のアプリ操作に近い体験を作れる。
Penpot のプロトタイプ機能は画面遷移の設定は可能だが、アニメーションの種類や細かいインタラクション設定はFigmaより制限が多い。「ステークホルダーへのプレゼン用途」なら十分だが、「細かい動きの検討まで行いたい」場合は物足りなさを感じる可能性がある。
Pixso のプロトタイプ機能はFigmaと同等に近い。画面遷移・アニメーション・条件分岐インタラクションに対応しており、実務でのプロトタイプ検証に十分使える水準だ。モバイルアプリのプレビューもスマートフォンから確認できる。
2.3 リアルタイム協業
これは3ツールの差がはっきり出るポイントだ。
Figma は複数人が同時に編集していても動作が安定しており、50人規模のチームでも問題なく動く実績がある。コメント機能、バージョン管理、変更履歴の確認なども充実している。
Penpot もリアルタイム協業に対応しているが、セルフホスト環境ではサーバーのスペックや設定によってパフォーマンスが大きく左右される。特に大人数での同時編集時には、インフラ側の調整が必要になるケースがある。
Pixso は協業機能に力を入れており、同時編集の安定性はFigmaに匹敵するレベルを実現している。コメント・メンション・タスク割り当てなどのコミュニケーション機能も充実しており、デザインチームと開発チームが同じ空間で仕事できる設計になっている。プライベートデプロイ環境でも、この協業機能はフルに使える点が重要だ。
2.4 デザインシステム管理
Figma はLibrary機能によるコンポーネント共有、そしてVariables(バリアブル)を使ったデザイントークン管理が非常に強力だ。大規模なデザインシステムを組織全体で運用する際のFigmaの完成度は、現状では他を大きく上回る。
Penpot もコンポーネントライブラリは持つが、チーム間でライブラリを共有・管理する機能はまだ発展途上だ。大規模なデザインシステムを複数チームで運用する用途には、現時点では向いていない。
Pixso はデザインシステムの一元管理に対応しており、コンポーネントライブラリのチーム間共有、アセット管理、デザインシステムのバージョン管理も含めて整っている。エンタープライズ用途を想定した設計になっているため、組織規模での運用に耐えられる作りだ。
2.5 デベロッパーハンドオフ
Figma のDev Modeは、デザイナーと開発者の橋渡しとしてよく考えられており、CSS・Swift・Android XMLなどのコード自動生成、スペック確認、アセットのエクスポートが一画面で完結する。
Penpot は「Web標準(CSS)ベース」という設計思想があり、パネルに表示されるスタイル情報がそのままCSSとして使いやすい形式になっている。Web開発者との親和性という点では独自の強みがある。
Pixso も開発者向けのコードパネルを持ち、CSS・iOS・Android向けのコード生成に対応している。Figmaほどの精緻さには至らないが、実務のハンドオフ用途としては十分な水準だ。
機能比較まとめ
| 機能 | Figma | Penpot | Pixso |
|---|---|---|---|
| UIデザイン全般 | ◎ | ○ | ◎ |
| プロトタイピング | ◎ | △ | ○ |
| リアルタイム協業 | ◎ | ○ | ◎ |
| デザインシステム管理 | ◎ | △ | ○ |
| デベロッパーハンドオフ | ◎ | ○ | ○ |
| AI支援機能 | △ | △ | ○ |
| 日本語UI対応 | ○ | △ | ◎ |
第3章:セキュリティ・デプロイ形態の比較——日本企業が最も重視するポイント
機能比較ではFigmaが優位に見えるが、この章が本記事の核心だ。機能が充実していても、セキュリティ要件を満たせなければ、大企業のIT調達では選択肢に入らない。

3.1 Figmaのデータ管理の実態
Figmaは全データをAWS上に保存する。より具体的には、ファイルのデータはAWSの米国リージョンを中心に保管されており、ユーザーが保存先のリージョンを選択することは(2026年時点では)できない。
Enterpriseプランでは一部のセキュリティ機能(SSO対応・監査ログ・カスタム権限設定など)が追加されるが、データが米国のAWSサーバーに保存されることは変わらない。
これが意味することを整理すると:
- 日本国内のサーバーにデータを置く、という要件を満たせない
- クローズドなイントラネット環境では使用できない(インターネット接続が必須)
- ISMS認証取得済みの企業で「クラウド利用に関する規程」が厳しい場合、IT部門の承認が下りないことがある
- 金融機関・保険会社・官公庁関連企業での採用が難しいケースが多い
Figmaのサポートに対して「オンプレミス版の提供予定はあるか」と問い合わせると、現時点では「提供していないし、予定もない」という回答になる。これは今後も変わる可能性が低い。
3.2 Penpotのセルフホスト——可能と「エンタープライズ対応」は別の話
Penpotは公式にDockerイメージを提供しており、技術的には自社サーバー上にデプロイすることが可能だ。オープンソースなのでコードも公開されており、セキュリティ上の透明性という意味では評価できる。
しかし、「セルフホストできる」と「大企業が安心して本番運用できる」の間には、無視できないギャップがある。
運用・保守コスト:セルフホスト環境のバージョンアップ・パッチ適用・バックアップ設計・障害対応は、すべて自社の責任になる。専任のインフラエンジニアが必要であり、その人件費は無視できない。
サポート体制の不在:Penpotにはコミュニティフォーラムとドキュメントはあるが、日本語での商用サポートを受けられる窓口は存在しない。障害発生時に深夜に対応してくれるベンダーサポートは期待できない。
エンタープライズ向け機能の不足:Active Directory(AD)との連携、詳細な監査ログ、権限管理の粒度、SLAの保証——こういった大企業が求める要素を、Penpotのセルフホストでは十分に満たすことが難しい。
セキュリティ検証の負担:自社でデプロイする以上、そのシステムのセキュリティ検証(脆弱性診断・ペネトレーションテストなど)も自社で実施する必要がある。ISMSの観点から、これは相当なコストになる。
Penpotはスタートアップや技術力の高いエンジニアチームが「無料でデザインツールを自社管理したい」という目的には合っている。しかし、金融機関や大手製造業のような組織が求める「商用サポート付きのエンタープライズグレードのオンプレミスソリューション」としては、現状では実力が及ばない部分がある。
3.3 Pixsoのプライベートデプロイ——エンタープライズが必要とするもの
Pixsoが提供するプライベートデプロイは、Penpotのセルフホストとは設計の思想が異なる。
Penpotのセルフホストが「コードを渡すから自分で設定してほしい」という性格なのに対し、Pixsoのプライベートデプロイは「エンタープライズの環境に合わせてしっかり構築・サポートします」という性格だ。
具体的に何が違うかを列挙する:
デプロイ環境の選択肢:物理サーバー(オンプレミス)・プライベートクラウド(VMware、OpenStack等)・ハイブリッドクラウドのいずれにも対応している。閉域網(インターネット非接続の社内ネットワーク)での運用も可能だ。
認証基盤との連携:Active Directory、LDAP、SAML 2.0によるSSOに正式対応している。既存の社内ID管理と統合できるため、ユーザー管理の二重管理が発生しない。
監査ログ:誰がいつどのファイルにアクセスし、何を操作したかのログを取得・保管できる。ISMSの要件や内部統制の観点から、この機能の有無は大きい。
権限管理の粒度:組織・チーム・プロジェクト・ファイルという階層で、閲覧・編集・エクスポート・コメントの権限を細かく設定できる。「外部パートナーにはこのプロジェクトのみ閲覧権限」といった運用が可能だ。
専任サポート:導入時のセットアップ支援から、運用開始後の障害対応まで、商用サポートが提供される。日本市場向けには日本語サポートの体制が整っている。
SLAの保証:稼働率の保証とインシデント対応時間の規定がある。業務上重要なツールに対して求められる信頼性の基準を商業契約として担保できる。
3.4 日本の法規制への対応マトリクス
| 規制・基準 | Figma | Penpot(セルフホスト) | Pixso(プライベートデプロイ) |
|---|---|---|---|
| データの国内保管 | × | ○(自己責任) | ◎(正式対応) |
| 経済安全保障推進法への配慮 | △ | ○ | ◎ |
| ISMS(ISO 27001)対応 | △ | △(自社整備が必要) | ◎ |
| 金融庁クラウドガイドライン | × | △ | ○ |
| 閉域網(イントラネット)での利用 | × | ○ | ◎ |
| 監査ログの取得 | ○(Enterpriseのみ) | △(設定が必要) | ◎ |
| AD/SAML SSO連携 | ○(Enterpriseのみ) | △ | ◎ |
第4章:コスト比較——TCO(総所有コスト)で見た場合の実態
価格表の数字だけを見ていると、判断を誤ることがある。ここではライセンス費用だけでなく、運用コストも含めた総所有コストで3ツールを比較する。

4.1 Figmaのライセンスコスト(2025年時点)
Figmaの主要プランは以下の通り(2025年時点・ドル建て):
- Starter:無料(機能制限あり、プロジェクト数・バージョン履歴に制約)
- Professional:1ユーザーあたり$15/月(年払い)
- Organization:1ユーザーあたり$45/月(年払い)
- Enterprise:1ユーザーあたり$75/月(年払い)
SSO・監査ログ・高度な権限管理を使うにはOrganizationプラン以上が必要で、100人規模のチームなら月額45万円(年換算540万円)以上のコストになる。
加えて、円安の影響は無視できない。2020年頃と比べてドル円レートが大幅に変化しており、3年前と同じ人数を使っていても実質的なコストは数十%増になっているチームも多い。
4.2 Penpotのコスト構造——「無料」の裏に何があるか
Penpotのクラウド版(penpot.app)は無料で使える。セルフホスト版もソフトウェア自体は無料だ。
しかし実際の運用コストはゼロではない。以下のコストを見積もる必要がある:
インフラコスト:Dockerで動かすためのサーバー費用。最低限の構成でも月数万円のクラウドサーバー費用がかかる。高可用性構成(冗長化・自動バックアップ)を組むとさらに増える。
インフラエンジニアの人件費:初期セットアップだけでなく、バージョンアップ対応・障害対応・セキュリティパッチ適用を継続的に行う担当者が必要だ。専任1人を工数換算すると年間数百万円のコストになる。
セキュリティ検証コスト:企業のセキュリティポリシーに沿った脆弱性診断・ペネトレーションテストを実施するなら、外部ベンダーに依頼した場合年間100〜300万円の費用が発生することもある。
サポートコストの不在リスク:障害が発生した際に解決までの時間が長引くと、デザインチームの業務が止まる。その機会損失コストは定量化しにくいが、実際のリスクとして認識しておく必要がある。
4.3 Pixsoのプライベートデプロイコスト
Pixsoのプライベートデプロイ版の価格は企業規模・構成要件によって個別見積もりになるため、ここでは公開できる範囲での概算を示す。
ライセンス費用はFigmaのEnterpriseと同等の水準感だが、プライベートデプロイのオプションが含まれることを考えると、「同等のセキュリティ水準をFigma Enterpriseで実現しようとした場合の費用」と比較するのが正しい。そしてFigmaではそもそもプライベートデプロイは不可能なので、この比較自体が成立しない。
Penpotのセルフホストとの比較では、インフラコスト・人件費・セキュリティ検証コストを加算したPixsoのTCOは、3年スパンで見るとPenpotセルフホストより高くなることもある。しかし、サポート品質・安定性・エンタープライズ機能の充実度を加味すると、大企業の本番環境としてはPixsoの方が現実的な選択だという判断が成り立つ。
4.4 チーム規模別コストシミュレーション
以下はあくまで目安の試算。実際の費用はPixso営業への問い合わせで確認を。
| チーム規模 | Figma(Org) | Penpot(TCO想定) | Pixso(概算) |
|---|---|---|---|
| 20人 | 約108万円/年 | 約60〜120万円/年 | 個別見積もり |
| 100人 | 約540万円/年 | 約150〜300万円/年 | 個別見積もり |
| 500人 | 約2,700万円/年 | 約500〜800万円/年 | 個別見積もり |
※Figmaは$45/月×人数×12ヶ月を1ドル=150円換算。Penpotはインフラ・人件費込み。
大規模チームほどFigmaのコストが際立って高くなることがわかる。この規模の企業がPixsoを選ぶ動機の一つがここにある。
第5章:Pixsoプライベートデプロイの導入フロー
実際にPixsoを企業に導入する際のステップを、担当者が社内で稟議を進める際の参考になるよう詳しく説明する。

5.1 ステップ1:要件定義とインフラ環境の確認
まず明確にしておくべきことは「どんな環境にデプロイするか」だ。大きく3パターンある。
①物理サーバー(オンプレミス):完全に自社管理のサーバーに構築するパターン。データが物理的に自社内に存在することになるため、最もセキュリティ要件が高い組織に向いている。ただし、サーバーの調達・ラッキング・電源・ネットワーク設計も含めて考慮が必要だ。
②プライベートクラウド(社内クラウド):VMwareやOpenStackなどで構築した社内クラウド基盤の上にPixsoをデプロイするパターン。物理サーバーの調達が不要で、リソースの柔軟な調整ができる。
③ハイブリッドクラウド:コアデータは社内に置きながら、一部機能(CDN、ストレージなど)はプライベートなクラウド環境を活用するパターン。コストと安全性のバランスを取りたい場合の選択肢になる。
インフラ環境が決まったら、必要なスペックの確認を行う。Pixso側から最小構成要件の資料が提供されるため、それをもとに社内インフラチームと調整を進める。
5.2 ステップ2:社内ID基盤との連携設定
ほとんどの大企業では、Active DirectoryやLDAP、SAML対応のIdPを使って社内のIDとアクセス権を一元管理している。Pixsoはこれらと連携できるため、既存のID管理インフラをそのまま活用できる。
LDAP/AD連携:社員のアカウントをPixsoに個別に作成する必要がなくなり、入退社・異動に伴うアカウント管理の手間が大幅に減る。
SAML 2.0 SSO:すでにOkta・Azure AD・OneLoginなどのIdPを導入している組織なら、そこに設定を追加するだけでPixsoへのシングルサインオンが実現できる。
この設定作業はPixsoの技術サポートと共同で行うことができるため、社内IT部門への負担を最小限に抑えられる。
5.3 ステップ3:既存Figmaファイルの移行
すでにFigmaで大量のデザインファイルを蓄積している組織にとって、移行時のデータ損失リスクは重大な関心事だ。
Pixsoは.figファイル(Figmaのネイティブ形式)のインポートに対応しており、コンポーネント・スタイル・プロトタイプ設定を含めて移行できる。ただし、すべての要素が完全に再現されるわけではなく、特に複雑なアニメーション・プラグイン依存のコンテンツなどは移行後に確認と調整が必要になる。
推奨する移行アプローチは以下の通り:
- 移行パイロット:重要度の低いプロジェクトのファイルを数件試験移行し、再現性と問題点を確認する
- 問題の洗い出し:移行後の差異をリスト化し、手動で修正が必要な箇所を特定する
- 本番移行:優先度の高いプロジェクトから順番に移行し、移行後の確認プロセスを定める
- 並行運用期間:全ファイルの移行が完了するまで、FigmaとPixsoの並行運用期間を設ける
移行には時間がかかるが、段階的に進めることでリスクを管理できる。
5.4 ステップ4:権限設計とガバナンスの整備
プライベートデプロイの運用で最も重要な設計の一つが権限管理だ。Pixsoでは以下の階層で権限を設定できる。
- 組織レベル:全社的な設定・管理者の指定
- チームレベル:部門・プロジェクトチームごとのアクセス範囲の制御
- プロジェクトレベル:特定のプロジェクトへの参加権限
- ファイルレベル:個別ファイルの閲覧/編集/コメント/エクスポート権限
外部パートナー(デザイン会社や開発会社)に特定のプロジェクトだけアクセスさせたい、という場面でも柔軟に対応できる。
5.5 ステップ5:全社展開と定着化
ツール導入の成否は、機能ではなく「現場に定着するかどうか」で決まる。
デザインシステムの移行・構築:既存のデザインシステムをPixsoに移管し、全チームが共通のコンポーネントライブラリを使える環境を整える。これが整備されると、ブランド一貫性の維持と制作効率の向上が同時に実現する。
開発チームとの連携設定:デベロッパーハンドオフのフローを設計し、エンジニアがPixsoからどのようにスペックやアセットを取得するかを決める。ドキュメント化して共有する。
研修とオンボーディング:Figmaから移行する場合、操作の共通点が多いため習得コストは比較的低い。ただし、Pixso固有の機能(AIアシスト機能など)を活用できるよう、チームリード向けのハンズオン研修を設けることを推奨する。
第6章:どのツールを選ぶべきか——企業タイプ別の判断基準
ここまで機能・セキュリティ・コスト・導入フローを比較してきた。最終的にどのツールが自社に合うかを判断するための整理をする。

6.1 スタートアップ・小規模チーム → Figmaが最適
チーム人数が20人以下で、セキュリティ要件が一般的なレベルであれば、Figmaが依然として最良の選択だ。プラグインエコシステムの豊富さ、デザイナーの採用市場での標準ツール認知度の高さ、コミュニティの充実度——これらはFigmaの独自の強みで、他のツールにはすぐには追いつけない優位性がある。
「コストが気になるが機能は妥協したくない」という場合、FigmaのProfessionalプランから始めて、機能的に問題ないか検証するアプローチが現実的だ。
6.2 技術力のある開発者チーム・OSS重視の組織 → Penpotを検討する価値あり
以下の条件が重なる場合、Penpotのセルフホストを選ぶ合理性がある:
- Dockerを使ったインフラ管理の内製能力がある
- セキュリティ要件は「データを自社管理したい」程度で、ISMSなどの厳格な認証が不要
- ツールの商用サポートよりも、ゼロライセンスコストを優先したい
- OSSコミュニティへの貢献・関与に価値を感じている
ただし、プロダクション環境でのトラブル対応を自力でやりきれる技術力がある前提だ。エンジニア組織の中にデザインツールの運用を担当できる人がいない場合は、Penpotの選択は慎重に判断する必要がある。
6.3 大企業・金融・官公庁・製造業 → Pixsoプライベートデプロイが最適解
以下の条件のうち1つでも当てはまる場合、Pixsoのプライベートデプロイが最も現実的な選択肢になる:
- 設計・開発データを社外のクラウドに置くことをIT部門・コンプライアンス部門が認めない
- ISMS認証の取得・維持のために、使用ツールの厳格な管理が求められている
- Active Directory・LDAPとの統合が社内ポリシー上必須
- 障害発生時の対応保証(SLA)がベンダーとの契約に必要
- インターネット接続のない閉域網環境での使用が求められる
- 設計資産のエクスポート制限など、細かいアクセス制御が必要
このような要件を持つ組織は、Figmaのクラウド版もPenpotのセルフホストも、それぞれ別の理由で要件を満たせない。Pixsoのプライベートデプロイが、現時点で商業的に提供されている最も現実的な解になる。
移行判断チェックリスト
自社に当てはまるものをチェックしてほしい。
- [ ] 設計データを国内のサーバーに保管することが必須だ
- [ ] 現在のデザインツールのコスト(Figmaなど)が年間予算の課題になっている
- [ ] IT部門から海外クラウドSaaS利用に関する懸念が出ている
- [ ] デザインツールとAD/SSOを連携させたい
- [ ] 閉域網での使用を求められている
- [ ] ツールの障害時に対応してくれる日本語サポートが必要だ
3つ以上当てはまる場合、Pixsoプライベートデプロイの評価を始めることを勧める。
よくある質問(FAQ)
Q1. FigmaはオンプレミスやVPC内にインストールできますか?
できません。Figmaは2026年時点でクラウド専用のSaaSとして提供されており、オンプレミスへのインストールや、顧客管理のVPC上へのデプロイには対応していません。これはFigmaの公式サポートでも確認されており、今後の対応予定についても明言されていません。セキュリティ要件でクラウド外部へのデータ保管が必須の場合、Figmaは選択肢に入りません。
Q2. PenpotとPixsoのセルフホストは何が違いますか?
最大の違いはサポート体制と運用責任の範囲です。Penpotのセルフホストはオープンソースのため、デプロイ・運用・セキュリティ管理・バージョンアップはすべて自組織の責任になります。商用サポートは基本的にありません。Pixsoのプライベートデプロイは、初期構築の支援・運用中の技術サポート・SLAの保証が付いた商用製品として提供されます。「ソフトウェアを渡すだけ」ではなく「エンタープライズ環境への導入をサポートする」というアプローチの違いです。
Q3. Pixsoは日本語UIに対応していますか?
はい、対応しています。UIの日本語化に加えて、日本語でのカスタマーサポートも提供されています。日本市場向けの展開が進んでいるため、日本語ドキュメントや導入支援も受けられます。
Q4. Figmaから移行するとデザインデータは失われますか?
PixsoはFigmaの.figファイル形式のインポートに対応しています。コンポーネント・スタイル・プロトタイプ設定の多くは移行できますが、Figmaプラグイン依存のコンテンツや一部の高度なアニメーション設定は手動対応が必要になる場合があります。移行前にパイロット検証を行い、問題箇所を把握してから本番移行を進めることを推奨します。
Q5. Pixsoのプライベートデプロイ版にトライアルはありますか?
評価環境の提供については、Pixsoの営業担当に直接問い合わせることで、デモ環境のアクセスやPoC(概念実証)の相談ができます。規模・要件によって対応が変わるため、まず問い合わせフォームから連絡してほしい。
Q6. ISMS・Pマーク取得済みの企業でも問題なく使えますか?
Pixsoのプライベートデプロイは、ISMS取得組織が求める「利用サービスの管理・制御」「アクセスログの取得」「データ保管場所の明確化」「ベンダー管理」といった要件に対応できる設計になっています。ただし、具体的な適合性は自組織のISMS管轄範囲と規程内容によって異なるため、情報セキュリティ担当者が要件を整理したうえでPixso側と確認することを推奨します。Pマークについても同様です。
まとめ
Figma・Penpot・Pixsoの3ツールを比較してきた。それぞれの立ち位置を一言でまとめると:
- Figma:機能とエコシステムで業界最高水準。ただしクラウド専用という構造的制約がある。
- Penpot:オープンソースでセルフホスト可能。技術力のあるチームには有力な選択肢だが、エンタープライズ運用には相応の体制が必要。
- Pixso:Figma相当の機能を持ちながら、大企業向けのプライベートデプロイを商用サポート付きで提供できる唯一の選択肢。
セキュリティ要件・コンプライアンス・データの国内保管が求められる日本の大企業・金融・官公庁・製造業にとって、現時点でPixsoのプライベートデプロイが最も現実的な解であることは、この比較から明確だと思う。
Figmaの使い勝手に慣れているチームが多いことは理解している。だからこそ、操作感の移行コストが低く、機能的に同等水準のPixsoは移行先として受け入れやすい選択になる。
まず社内のセキュリティ・IT部門と現状のFigma利用における課題を確認し、要件が合致するようであればPixsoのデモを依頼することから始めてほしい。
本記事の情報は2026年時点のものです。各ツールの機能・価格は変更になる場合があるため、最新情報は各社の公式サイトでご確認ください。